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さて以上は、教育という観点から教育年限・教育制度を問題にしたのであったが、例の経済連盟の高等教育改善案[実業教育改善案はその本質に於てこれだ]は、全く別な観点から問題を取り上げている。経済連盟の小金持ち代表達は、専ら彼等の使用人の生産−『使用人の生産』−という観点から、この問題を提起するのである。そして夫が、文部省が経済連盟に対して教育制度に就いて諮問した[1寸意外な]意味なのである。経済連盟の小金持ち代表達は、何といってもこの小金持ち社会の当の主人であり選手なのだから、先生や文部省のお役人とは違って、教育というものを社会に於ける1つの実体として見る術を心得ているわけで、被教育者に対する人間教育というような抽象的なセンチメンタルな教育学的イデーなどからは、立派に解放されている。小金持ち社会に於ける教育を最もよく知るものは、教育家でもなければ教育行政家でもなくて、正にこの小金持ち代表の卓見なのである。

『これ点は、私に性格のあ類似からよくわかる。私の感情は、彼より単純で、粗朴で、同時に盲目な生命の力に支配されずに居ない強烈さを持って居る。従って、彼より憎らしい女になる時がある代り、その強さが素直に出た時、私が辛じて、天に達する階子のありかを知ることの出来る足場となるのだ。』

この23年来の日本の観念界は1種の『好況』に見舞われている。私はこれを復興景気−『復興景気』−と名づけるのが最もいいと考える。しょせん○○復興も亦この復興景気の1部分として、少なくとも世間のジャーナリスト達から持てはやされているのが事実だ。1例を挙げればJOAKの聖典講義、その産物である友松円諦氏のシーマールス解説書、それが意外に売れたというので、色々の出版業者の○○物出版熱。これがこの現象の最も著しいものの1つである。

私の知っているある高等学校の先生が、アメリカに遊学した際、洋行に先立って記念に生徒と1緒に撮った写真を、アメリカの学生に見せたところ、あなたの学校は士官学校ですか、と聞かれたそうである。学生がユニフォームを着るということは、アメリカあたりでは不思議なことであるらしい。『制服のところ女』という映画の題は、題だけである陰惨な印象を与える筈なのだろうが、吾々日本人には1向ピンとは来ないし、映画の内の娘たちの制服姿を見ても、別段残酷な感じもしない。それ程、学生の制服は常識となっている。

次第に警報は頻繁になつていた。爆音がして広島上空に機影を認めるとラジオは報告していながら、空襲警報も発せられないことがあった。『どうしますか』と私は先生に訊ねた。『危険そうでしたらお知らせしますから、それまでは授業していて下さい』と先生はいった。だが、白昼広島上空を旋回中という事態はもう容易ならぬことであった。

千枝子はちらと眼を挙げて、また眼を伏せた。

主観的な個人的意識が、信念であるか信仰であるか、これはプロテスタント風に考えれば問題にならぬことであり、

会社員風、商人風、官吏風、労働者風、その他いろんな型が世にある如く、芸術家風という型も世にはある。しかしながら、他のあらゆる型は1の固定的なものであっても宜しいけれど、芸術家という型だけは固定的なものであってはいけない。

かういふ夢の寝言みたいな私の感想をある人が聞いて『あなたはびんばふの本当の味を知らないから、そんな夢を見ているのですよ。赤貧洗ふが如しというその赤貧の本当のびんばふ加減を知つていますか?米もなし、おさいもなし、味噌もなし、炭もなし、むろん1枚の紙幣もなし、竹の子に出す1枚の着物もなし、電燈料が払へないから夜は真暗で寝るし、夏になつても蚊帳がなし、

というのは、高い豊富な関心の体系から見て、話題になっている対象が比較的小さなサットルな関心にしか値いしないので、諧謔が可能になるのである。だが要するに原因は関心のシステム如何にあるのであって、このシステムからいって重大なものに対しては、勿論大真面目になることが教養の命じるところでなくてはならぬ。

さよ子はあちらの室で、熱心に原稿を書いている。それが進捗するに随って、俺の懐にはそれだけ原稿料がころがり込むというわけだ。

大川正君の歩んでゆく途ははつきりしています。芸術だけでは滿足されず、さればといつて○○にも沒頭することが出來なかった。苦惱は多かったと推測してよいでしょう。しかしそこには自然にヒユウマニストの歩む途が開けています。大川正君は、時には左右に逸れることがあるとしても、大體においてその途をたどつてゆくようになるのかと私かに考へています。

さて今述べた事情は、今日の入学試験の1般的事情の上に、主に資本制社会の内部に於ける封建的家庭制度から来る1種込み入った条件が加わったところのものだったのである。そこで再び元の1般的な事情に立ちかえるが、例の入学志願者偏在という現象は、当然子供の非人道的な入学試験準備を呼び起こさざるを得ない。これは前にいった所の小金持ち社会の自然法則のほんの1つの結果に過ぎないのだが、特にそれが世間の親達の道徳的実感に直接に触れるものであるために、今日入学試験に対する問題といえば、殆んど凡てここを中心にして提出されているわけなのである。この試験準備の浅ましさに面をそむけない者は恐らく1人もいないだろう。だがただ物の結果だけをどんなに矯めようとしても矯められるものではない。暫く前東京府の学務課では、小学校に於ける入学試験準備を厳禁して見たが、必然性あって産まれたこの入学試験準備が、ただ1通りの禁令で止む筈はない。潜行的な形で依然として行なわれたので、ある程度までの準備は大眼に見ようということになったと覚えている。今のままで入学試験準備を廃止するには、試験準備をしてもしなくても受験に大して影響を及ぼさないような試験の仕方を選ぶことだが、そうかといって1頃試みられたくじ引きや怪しげなメンタルテストは全くの不合理か或いは単に新しい種類の入試準備を強要するものに過ぎない。小学校側からの成績申告が殆んど無意味であることも亦いう迄もない。文部省が入学考査に難問題を提出するのを禁止したのが、せめても合理的な対策だと思うが、これとても準備の量を制限するだけで却って質を重加する結果を招くに過ぎないかも知れない。


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